そのような坂本先生の主張は、中小企業の会計指導に携わる多くの職業会計人を励まし、元気づけています。これまで多くの会計人は意気消沈していました。約十年前に橋本政権の下で始まった会計ビッグバン(一九九九年)以降、わが国の会計学者と国の政策を担う国家官僚の多くには抜きがたい誤解が生まれていたからです。社外の投資家に対して国際会計基準に基づいて情報開示する必要性が異常に強調され、その結果これを正当なものとして、中小企業においても国際会計基準を適用すべしという議論が高まっていました。しかし、わが国の企業数の九十九%を占める中小企業においては、社外の投資家から資金調達する必要性はほとんどなく、むしろ長期にわたる経済の低迷が続くなかで、企業が存続発展するために会計記帳に始まる会計プロセスの全体を見直し、その機能を強化するほうが重要な課題となっていたからです。その究極の目的は、職業会計人による関与先企業に対する黒字決算の支援と適正申告の実現でした。しかし、面白いことに歴史は繰り返すようです。いま、会計パラダイムが再び変わりつつあるようです。今度もアメリカ発なのですが、日本版SOX法(金融商品取引法)の導入による内部統制の要求は、会計手続きの抜本的な見直しを上場企業を始めとする大企業に迫っています。本書に示された「会計の目的は、まず倒産防止にある」という坂本先生の指摘は、中小企業のみならず大企業においても経営者が襟を正して聞かなければなりません。今度は、倒産という最悪の事態に至らなくとも、虚偽の会計記帳により虚偽の会計報告がなされた場合は、経営者は巨額な罰金と禁固刑を含む刑事罰を受けることになるからです。 2
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