『社長の仕事』

 TKC全国会 創業・経営革新支援委員会
 バランス・スコアカード研究小委員会 編著
 (執筆陣:松本健司・赤岩茂・松本正福・齋藤保幸・島津文弘・黒岩延時・海江田博士)
(目次)

第1章 社長の仕事
 第1節 2つの企業再生手法
 Ⅰ カルロス・ゴーン氏の企業再生手法に学ぶ
  1.目標を明らかにし、達成を「約束」する
  2.「しがらみ」にとらわれず、現実的に行動する
  3.業績不振の理由を社員に示す
  4.目標はあくまでも分かりやすく、数字で示す
  5.社員全員を1つにまとめ、経営に参加させる
  6.社員を燃えさせる経営手法を活用する
  7.チーム活動で社員の未知のパワーを引き出す
  8.日限を切り、改善策を徹底的に考えさせる
  9.新しい方針を内外に宣言
 Ⅱ 高塚猛氏の企業再生手法に学ぶ
  1.過去と他人は変えられないが、自分と未来は変えられる
  2.社員の誇りと使命感を喚起せよ
  3.マイナス情報を全社員に知らせよ
  4.社員は認めてほめろ(人たらしの極意)
  5.各部門の縄張り意識(セクショナリズム)を壊せ
  6.利益率改善の仕組みを作れ
  7.適切な商品観・顧客観を持て
  8.社員とともに一丸になれ
 第2節 社長は社長の仕事をせよ
 Ⅰ 最大の仕事は「顧客の創造」
 Ⅱ 社長には、6つの仕事がある
  1.経営理念を決め、企業に命を吹き込め
  2.経営戦略を決め、実行せよ
  3.適正利益を確保せよ
  4.組織を活性化させよ
  5.顧客を訪問せよ
  6.学習と成長の仕組みを作れ
 第3節 社長が変わらなければ企業は変わらない
 Ⅰ 発想を転換せよ
  1.発想転換のポイント
  2.発想転換のヒント
 Ⅱ 姿勢を転換せよ
 Ⅲ 行動を転換せよ

第2章 7つの着眼点
 第1節 経営理念を掲げよ
  1.経営理念が企業を救う!
  2.「経営理念で飯が食えるか!」
  3.理念が独自性を生む-卓越経営者のモデル像
  4.経営理念を浸透させよ!
  5.経営理念には企業風土形成力がある
  経営理念の具体例
  (東芝グループ・三菱東京フィナンシャル・グループ・イトーヨーカ堂・大同生命・三洋電機・TKC・JALグループ・セコム)
 第2節 経営計画を活用せよ
 Ⅰ 経営計画が必要な理由
  1.経営計画がない企業は銀行借り入れができない?
  2.金融機関の審査方法
  3.自社の現状認識と改善の手段
  4.「宝の山」から「改善テーマ」を発見せよ
  5.社員のやる気を引き出せ
 Ⅱ 経営計画作成時の留意点
  1.分かりやすく具体的に表現せよ
  2.社長自身で作れ
  3.「変動損益計算書」で目標を明確にする
  4.販売計画の立て方
 Ⅲ 経営計画運用上の注意
  1.計画を変更してはならない
  2.社内会議で計画実行をフォローする
 第3節 企業風土を改善せよ
  1.企業風土とは
  2.風土改善は業績アップにつながる
  3.悪い企業風土、良い企業風土
  4.企業風土は誰が作っているのか
  5.風土を作る人、壊す人、染まる人
  6.企業風土の悪さ加減の認識
  7.社員の意識の測定
  8.社員の行動の測定
  9.人間関係の測定
 第4節 顧客を拡大せよ
  1.顧客なくして企業なし
  2.顧客本位の発想こそ原点
  3.クレームは宝の山
  4.正しいクレーム処理
  5.顧客無視はしっぺ返しを食う
  6.顧客戦略の基本-顧客層を絞り込む
  7.受注型の事業と見込型の事業
  8.売上拡大方法の違い
  9.見込型事業は、指名買い(ブランド化)を目指せ
  10.受注型事業は顧客訪問をせよ
  11.お客様をセールスマンに
 第5節 データを経営に生かせ
 Ⅰ 財務データを生かす
  1.収益性を見る
  2.生産性を見る
  3.安全性を見る
  4.損益分岐点を見る
  5.成長性を見る
 Ⅱ 現場データを生かす
  1.現場データとは何か
  2.業種別の現場データを探る
  3.現場データを絞り込む
 第6節 自社の制約条件を突破せよ(TOCの手法)
 Ⅰ 制約理論とは何か
  1.「制約条件」を発見し、集中的に改善する
  2.企業全体の目標(ゴール)は何か
  3.継続的改善の5つのステップ
  4.「他部門が悪い」というルーチンに落ち込まないこと
  5.方針制約・市場制約・物理的制約の3つがある
 Ⅱ 制約理論特有の考え方
  1.「スループット」(利益+直接経費)の最大化
  2.在庫は「機会損失」とみなす
  3.スループットの増大策
  4.「太鼓」(ドラム)・「間隔」(バッファー)・「綱」(ロープ)
 第7節 資金調達の工夫をせよ
  1.ディスクロージャーの時代がきた
  2.中小企業に対する無担保無保証融資の拡充
  3.決算書のインターネット公開
  4.中小会社の会計基準の制定
  5.直接金融の拡充
  6.新しい資金調達法(無担保無保証融資/少人数私募債/グリーンシート)

第3章 「バランス・スコアカード経営」で会社を変革せよ!!
 第1節 目標管理とマーケティング
 Ⅰ 「PDCAサイクル」を社内に根付かせよう
  1.意識的に仕組み作りをしなければ機能しない
  2.目標を分割し、結果を評価する
  3.経営者のリーダーシップで「PDCAサイクル」を確立しよう
  4.全体のビジョン・戦略との整合性が大事
 Ⅱ マーケティング分析の手法
  1.常に顧客からの視点で考える
  2.一貫した顧客ポリシーをもつ
  3.顧客層を絞り込み、独自性を打ち出す
  4.マーケティング分析の基本
  5.自社の強みを見直そう
  6.勝ち残るマーケティング戦略
  7.知っておくと便利なSWOT分析の手法
 第2節 「バランス・スコアカード経営」のすすめ
 Ⅰ 「バランス・スコアカード経営」とは何か
  1.なぜ、いま「バランス・スコアカード経営」なのか
  2.経営戦略を立てても、90%の会社が失敗している
 Ⅱ 業績評価・業績管理手法としてのバランス・スコアカード
  1.「バックミラー経営」から「ナビゲーション経営」へ
  2.財務数値偏重から多面的な業績評価へ
  3.バランスとは、何のバランスか
  4.バランス・スコアカードの特長
 Ⅲ バランス・スコアカードを作成する
  1.作成の手順
  2.「戦略マップ」を作成する
  3.4つの視点とは
  4.「バランス・スコアカード」を作成する
   重要成功要因(CSF)を発見する
   ・重要業績指標(KPI)を設定する
   ・ターゲット(数値目標)をどのように決めるか
 Ⅳ バランス・スコアカード導入の流れ

第4章 中小企業の「戦略マップ」活用事例
 1.A社(水産加工業)
 2.H社(建設業)
 3.B社(冠婚葬祭業)
 4.S社(会計事務所)
 5.N社(運送業)
 6.I社(牛乳宅配業)
 7.R社(小売業)


(はじめに)

 本書は、TKC全国会の会員であり、その創業・経営革新支援委員会バランス・スコアカード研究小委員会に所属する7人(税理士・公認会計士)が、中小企業の再生を願って、各自の経験と知識を総動員して書き起こした、中小企業経営者に向けてのメッセージであり、中小企業の活性化に向けた1つの処方箋でもある。
 1970年以来、34年間、税理士としてまた一コンサルタント(ICG)として、中小企業の発展と成長を願って、仕事をしてきた私自身のささやかな経験から、確信を持っていえることは、中小企業がかつての活力を取り戻すことなしに日本経済の再生はあり得ないということである。今、中小企業の社長に求められているのは、現状を打破し、思い切った経営の革新に取り組むことである。現状の延長線上には中小企業の活性化も栄光もなく、過少利益と赤字の累積による体力の消耗が残るだけである。
 本書の第1章で取り上げている、日産自動車や福岡ドーム、シーホークホテルのように、大手企業であれば、社長が代わることによって、企業風土は一変し、新社長のもとに経営が大改革され、利益体質に転換するということも可能である。しかし、多くの中小企業の社長はオーナー経営者であり、ドラスティックな改革はできず、その結果企業風土は澱み、マンネリとあきらめが社内を支配しがちになる。このような中小企業が経営革新をし、現状打破をするためには、社長自身に「発想の転換」「姿勢の転換」「行動の転換」を実践していただくことが最も重要なのである。

 「目標が明確ならば、意欲が湧く」という。明確な目標が提示されれば、集団はその目標を達成すべく意欲を持って行動するはずである。
 中小企業も「売上目標」を定め、経営計画を策定しているが、集団が意欲を持ち、熱気を帯びてその目標を達成すべく行動をしているだろうか。大手企業とて同様である。
 倒産した百貨店「そごう」にも立派な販売計画・売上目標・経営計画は存在したはずだ。しかしそこでは目標が「真の目標」として機能せず、いつの間にか「願望」にすり替わっていたのではないか。
 つまり「売上目標が達成できたらいいなあ」という願望レベルでは、集団は活性化しない。「目標」は少し気を抜くとすぐ「願望」にすり替わる。「目標」をいつも「真の目標」たらしめるのが社長の仕事である。

 日産自動車を立て直したカルロス・ゴーン氏は「コミットメント」だという。コミットメントとは「期限を決めて絶対に達成すると約束した目標」つまり、何が何でも達成しなくてはいけない目標だそうである。
 現在の中小企業の大部分は「過少利益」か「赤字」で、企業体力が低下している。
 社長の仕事の中で重要なる目標の1つは、企業の体格(売上高・総資本・社員数)に応じた「適正利益」を確保することである。「適正利益」が確保されていなければ、どうなるか。例えていうならば、年齢・体格に応じた適正なカロリーを摂取していないか、絶食(赤字)をしている人間と同じ症状を呈し、企業は確実に痩せて体力を無くし、免疫力をなくし、軽い風邪をひいただけでも肺炎になり、死に至ることさえあり得るのである。
 企業が頓死を免れるためには、赤字または過少利益の現状から抜け出すための、前向きな「現状打破」ができるかどうかである。「現状打破」は、「現状否定」である。
 日産自動車を改革したカルロス・ゴーン氏の現状打破は、
 「切る」(人を切る・コストを切る・しがらみを切る)
 「売る」(資産を売る・車を売る・ブランドを売る)
 「作る」(売れる車を作る・人を作る・儲かるシステムを作る)
の3つであった。中小企業の社長さんにも、この3つができないはずはない。

 経営革新・現状打破といっても、徒手空拳で実行に移せるはずもなく、また闇夜に鉄砲を撃つというのも非効率的すぎる。そこで、本書は種々の経営革新の手法の中から、最新の管理手法として「バランス・スコアカード」(BSC‥Balanced Scorecard)の手法を取り上げた。

 長い平成不況のただ中でも、立派に業績を上げている中小企業もたくさんある。それらの企業は社長さんが「社長の仕事」を確実に実践しているのである。儲かっていない中小企業の社長さんは「社長の仕事」をしていなくて、社長がしなくてもいい「管理」「監督」をしているのである。「管理」をいくらしても利益は1円も増えないし、「コスト」がかかるばかりである。「管理」「監督」は分散化して社員に任せ、社長が社長の仕事をすれば利益体質の企業に変身するはずである。

 企業は単に生き残るだけでは駄目である。
 社長は社員満足度・顧客満足度を高めて売上高を確保し、企業体力に応じた「適正利益」を確保して社長の自己実現を果たしていただきたいと切に願う。

平成16年7月吉日
北九州市にて
松本健司

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