sample57244
13/24

複式簿記と「自己報告による健全経営の遂行」 パチョーリは、複式簿記の本質が「自己報告による健全経営の遂行」にあることを認識していました。それは、「商人の取引において、記録についての正しい秩序がなければ自らを統制することは、およそ不可能だからである。そして、彼らの心は、常に休まらず大なる苦悩の中におかれることになるからである」、「物事を適切に、その場で整理しなければ、すべての業務は最大の骨折りを要するばかりか混乱の中に陥る」、「秩序(ordnung)のない処では、すべては混乱に陥る」などの記述からも明らかでしょう。複式簿記の秩序性(Ordnung) 特に注目すべきことは、「秩序のない処では、すべては混乱に陥る」 ベネチア共和国は15世紀後半にはキリスト教世界でも屈指の海軍力をもつ都市国家でした。数学者であるルカ・パチョーリは、1494年に数学の著書『スムマ』を出版し、同書のなかで複式簿記の章を設けて、当時のベネチア商人が行っていた複式簿記の仕組みを学術的に体系化して記述しました。『スムマ』が出版される30年ほど前にコトルリ(Benedetto Cotrugli)が複式簿記の解説書を執筆していますが、コトルリの書が印刷されたのは『スムマ』よりも後であったため、『スムマ』が世界最初の印刷された複式簿記の解説書となっています。 パチョーリの業績に対しては、既存の知識を編纂したにすぎないという批判もありますが、パチョーリによって複式簿記の技法がヨーロッパ中に広まったという点で、その功績は大きいといえます。その評価は様々な古典に基づいて『ロミオとジュリエット』を著したシェークスピアに似ています。会計で会社を強くする 簿記・会計先覚者の 金言集・解説111解説

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る