v収斂を経て、会計士業務の拡大とそれに伴う会計士の行動規定の策定、独立性概念の生成、そして規制当局(SEC)との政治的闘争の始まりについて整理した。 第Ⅱ部では、1940年代から2001年のエンロン事件までを対象とし、マネジメント・サービス(経営助言業務)の興隆を縦軸として、独立性概念の発展、とりわけ「精神的独立性(independence of mind)」、「事実における独立性(independence in fact)」、「外観的独立性(independence in appearance)」概念と「独立性規則(independence rules)」との異同、会計士業務の拡張と独立性との関係性、およびSEC・AICPA・議会との激しい攻防を検証した。 第Ⅲ部では、2001年のエンロン事件から2020年代までを概観し、SEC・AICPA・議会・世論の動きを追いつつ、会計士業務の範囲の限定化と、それに伴う独立性概念をめぐる議論の衰退について明らかにした。加えて、これまでの考察を前提として、多様性と重層性とに富む独立性概念の全容を提示した。研究の端緒 飯塚毅博士による先駆的研究が存在していたこと、それに加えて筆者が受けたアメリカ公認会計士試験には倫理試験(Ethics Exam)があり、その後の「継続的職業専門家教育(continuing professional education, CPE)」においても何度か職業倫理を選択していたことから、「いつか、アメリカ公認会計士の独立性概念を本格的に研究したい」と考えていたが、諸般の事情から手をつけられずにいた。 研究開始の端緒となったのは、2019年の秋頃「アメリカのある大学の図書館からデジタル化された各種資料が入手可能である」という知らせを受けたことである。2020年3月頃から始まった新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックで生まれた時間を有効に活用して、知的生産活動を維持することに努めた。思えば充実した期間であった。 本研究を進める過程では、当初は点と点ばかりが散在している状態が長く続いた。やがて一定数の点を集めて俯瞰して見ると、点と点が結びついて、いくつかの線が現れる。そしてさらに大きく俯瞰して見ると、線と線が面となり、その面がダイナミックに展開している様子が浮かび上がってくるようになった。 ある概念の内容は、その概念の生成の過程を明らかにすることによっていっそう明確化される。監査人の独立性概念も同様である。しかしながら、少なくともわが国において、アメリカ公認会計士の独立性概念に関して、その黎明期から現在に至るまで、間断なく時系列的に考察した文献の存在を寡聞にして聞
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